ZARD

ニュー・シングル「明日を夢見て」
4.9Release!




 「さわやかな君の気持ち」以来、約10ケ月振りとなるZARDのニュー・シングル「明日を夢見て」がリリースされた。
 “明日”“夢”と短いタイトルの中にもZARDらしいとも言えるポジティヴな言葉が詰め込まれているが、全体を通した歌詞は夢を見つつも、後悔があったり、悩んだり挫折したりと、人間味のある身近な感情を隠さずに表現している。このタイトルはZARDのアルバム『Today is another day』に意味が近いらしく、「どんなに困難があっても明日、明日があるわ」という所から付けられている。さらに、今の坂井泉水の中で“夢”という言葉は、パーソナルな目標の1つというよりは、社会的なものも加味された広義なものへと成長しているようだ。

 「「明日を夢見て」という心情に至る状況はどんなだろう……と考えると、恋愛は勿論、死生観にまで及ぶ、生きていくための愛かなぁと気付いたんです。粛々と幸せを受け止める一方で、目の前の些細な事に翻弄されたり、感情に左右されたりしますよね。そんな所も歌詞として伝えたくて。夢という言葉も、拉致問題が大きくニュースで取り上げられ始めた頃、この方達を支えたものは「もう1度日本に帰りたい」という夢だったのかもしれない……と漠然と思い、そんな所からももっと世相を反映する詞、楽曲を創りたいと思うようになりました。今作は、どんなアプローチがいいのか、どうやったら“伝わる”のか“伝えられる”のかといった事を、根本から考えさせられましたね」

 行間に見え隠れする想いを感じさせる、メッセージ・ソング的な雰囲気も見せている。その歌詞の中には強い女性が登場するが、そんな強さの中にある弱さや脆さ、そして“もしもあの時違う決断をしていたら”といった誰もが1度は経験する後悔のフレーズがあったりと、聴く側に色んなシチュエーションを想起させる、多くの人が共感できる内容になっている気がした。ちなみに主人公はもしかして坂井さん?と思って聞いてみたら「さあ、どうでしょうか(笑)」とはぐらかされてしまった。

 「 私の事に関して言えば、強いのか弱いのか自分でも判りません(笑)。女性に限らず、みんな弱い部分を持っていますよね。私が興味を持つのは、完成されたものよりも“未完の良さ”ですし、人間の、理屈では割り切れない“感情”に着目したいなと思っています」

 強いかどうかは自分では判断しにくいものではあるが、いつも結果的にはポジティヴ・シンキングとなる歌詞を綴っているので、気持ちの切り替えは早い方なのでは?と問うと、「いえ、もう何ごとも遅くて……(笑)。やっぱり歌に乗せる詩、歌詞だから大胆にも違う自分にもなれちゃうんじゃないですか……」と意外な答えが返ってきた。しかし、そういった心で未来を見つめる視点を描写するからこそ、逆に希望を持った明るい空気が漂っているのかもしれない。

 また、今作の歌詞で特に目を引いたのが、“まだ僅かに木漏れ日が揺れるから”というフレーズ。“もしもあの時 違う決断をしていたら 今頃私達幸せに笑っていられたかな”“君の電話の声を聴くと 泣きたくなる 強い私でも”“いつだってピリオドと背中合わせ”といったフレーズで微妙な二人の関係をずっと描いている中、最後にたった一言このフレーズが入っただけで、イマジネーションを掻き立て、この2人の未来を明るく照らし出しているのだ。歌詞の中でもかなり大きな存在を放つ重要なフレーズと言える。

 「 そうですね。心の中の事をずっと綴ってきて、最後に目線をフッと外に移す、場面を切り替えたひとつ深呼吸するような感じです」

 この1つの言葉が入っただけで曲の印象を大きく変化させているのは、実際に聴いて貰えれば分かるだろう。冴えた表現を目と耳で体感して欲しい。

 サウンドは大胆なテンポ・チェンジを行った斬新なスタイルのアレンジになっている。ミディアムからアップ・テンポへのエモーショナルなリズム展開が、言葉にある情感を清々しく響かせる。

 「 何回かアレンジが変わっていて、 “歌を活かすにはどうしたらいいんだろう”とみんなで途方に暮れていた時に、“そうだ大胆なテンポ・チェンジもいいかな”と提案しました」

 ストリングス、ピアノ、アコースティック・ギター、オルガン、コーラスといった各パートの音色がともかく鮮やかにダイレクトに打ち出されており、言葉に含まれている映像的な面をより映し出す叙情的なナンバーに仕上がっている。アレンジで特にこだわった点を聞いてみると、「まずはお任せですが、そうですね、最初に入っていたチョッパーっぽいベースは、ジャズっぽくオシャレで好きでしたが、もう少しコードを強調するようなデモテープに近い感じにして頂きました」と、新しいアレンジに挑戦しながらも、単に斬新さだけを望まないという、ZARDらしい点も伺える。

 そのZARDらしさ。前作「さわやかな君の気持ち」の時も、緻密なサウンド作りやバック・トラックへのこだわりといったZARDらしさを、10周年を経たその時も大切に制作されていたのだが、今作もその流れを組んだ作品となっているように感じた。

 「ありがとうございます(笑)。そう言って下さると、とても嬉しいです。でも“らしさ”ってすぐ忘れてしまうんですよね。だからいつも頭の中で“私らしさ、ZARDらしさって何?”と自問自答していないとすぐ脱線しちゃう……。なぜZARDらしさにこだわるのか? ……やっぱりそれを怠ると、存在価値がない様な気がして……。でも私ひとりではなく、周りのスタッフのみなさん、そして協力して下さるスタッフのみなさんがあって初めて“結果”を出す事が出来る事なので感謝しています」

 ところで、前作の取材の時に「次作のタイトルは私の中では決めています」と言っていたのだが、もしかしてこの作品の事?!と思って聞いてみると「この曲です(笑)。実は次作のアルバム・タイトルも決めているんです。日頃、思い付いてはタイトルばかり携帯に打ち込んで保存しています」と随分前から今作のテーマを考えていた事を教えてくれた。この事からも今作にはかなりの時間を要していると分かる。

 「表面的には活動が止まっていたように見えたかもしれませんが、黙々と前作の発表後もレコーディングに入っていました。たくさん仮歌も歌いましたし、今回は声を大にして言います。もう、本当に時間が掛かったんですから!(笑)。丁度、陶芸のように“しばらく寝かせておいて”という時間(期間)もありますし、こう世の中の流れが速いと、あっという間に古くなりますから、あちこちが気になり出すのです。妥協を許さないというとオーバーですが、良いものを創るためにこういう期間が、私には必要だったんですね」

 カップリング 「探しに行こうよ」は、“君の死を無駄にはしないよ”や“抱きしめた君の残像”といったドキッとするフレーズがあり、ZARDの楽曲では“死”という言葉がダイレクトに使用された珍しい作品になっている。

 「一度、もう少しラブロマンス風の歌詞を書いて歌ってみたのですがしっくりこなくて、頭の中には“荒野”“アンチテーゼ”“旅”なんて言葉が巡って、そこから広げていきました。 直してファースト・インプレッションに少し近くなったのかもしれません。この曲のテーマは“旅”です。流れる景観、人生いろいろな人と出逢いますが、時には重いテーマである“死”に直面したり。死=終わりというよりも、死して再生、教えられるものなのかなぁと。でも、この“死”という言葉の意味に関しては、あまり限定はしたくないですね。みんな色々な考え方があると思うので。ただ混沌とした今だからこそこの言葉も生きるし、逆にそのぐらいじゃないと伝わらないんじゃないかと思いました。「明日を夢見て」もそうなんですが、“生きていてこそ”という共通したテーマが根底にあって、理由はなくごく自然にこの歌詞を書きたいと思いました」

 死=何かの象徴なのか、生命としての死なのか……、ダイレクトな言葉の中にある抽象的な広がりを見せる世界――それは聴く人それぞれの解釈によって、新たな展開を見せていくものなのであろう。そしてそれぞれが見つけた何かを“探し”に行く事をこの歌詞では提案しているのかもしれない。

 さて、今後の活動についてだが、“アルバムが制作できるぐらい、楽曲がある”と言っていたので、リスナーも2003年のZARDに期待が高まっているに違いないが、「もう次に、次の曲に取り掛かってますよ! 今年はマイペース返上で頑張りたいと思います!」とまさに望んでいた言葉を聞く事が出来た!

 待っていたファンに対しては「どれだけの人がZARDの曲を待っていて下さるのか……不安です。でも、“妥協せず良い作品を作って下さい”と言われると、やっぱり意欲をかきたてられるので、また少し前に進めます。今作も早くみなさんにお聴かせしたくて。反応が楽しみでもあり、怖い……(笑)」と久々のリリースに坂井自身も気持ちが引き締まっている様子。

 10ケ月という歳月を掛けて丹念に作り込んできた楽曲から、まずは2曲を披露……といった感のリリースとなった今作。様々な葛藤や思いが駆け巡りながらも、よりZARDらしさを追求しつつ、新たな事にもチャレンジしようといった姿勢が感じられる作品に仕上がっており、2003年のZARDに大いに期待を募らせるに値する珠玉のナンバーとなった。

  ★オマケ★
 先月号で100号のお祝い色紙を頂いたので、本誌との想い出も聞いてみた所「そうですねぇ……。スタッフの方が客観的に私の事を書いて下さった文章や、雑誌の表紙になった事が嬉しくてCDショップの店頭から2〜3冊持ち帰った事も……」と嬉しい返事が! 今月号もZARDが表紙なので、もしかして……?! 読者と同じように楽しみにして頂けるように、今後も頑張らねばと思わせてくれるコメントでした!


ZARD

New Single「明日を夢見て」

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※「明日を夢見て」読売テレビ・日本テレビ系全国ネット
月曜夜7:30放送アニメ「名探偵コナン」エンディングテーマ