稲葉浩志

New Single
「Wonderland」

7.14 On Sale!


 アルバム『マグマ』から始まった稲葉浩志のソロ・ワーク。この時彼は「出てくるものを録り続けたらアルバム一枚出来ましたという感じ。“何でも試してみよう、それで出来たものが全てです”という事かな。今の自分が出ているというよりも、今までの自分のやってきた事の蓄積がこのアルバムに出ているって事だろうね」とコメントしていた。
 稲葉のソロ作品はこの言葉に象徴されるように、自然に、そして蓄積されてきた音や言葉が集大成として生み出されているのだ。何枚リリースされようと、そのベースは変わる事がないのだろう。そうして創られた世界は、彼のパーソナルな部分が多いに反映された、ある意味、B'zとは相反する魅力を詰め込んだ作品に感じられる。強さとパワフルさを前面に押し出したB'z作品と、心の深い部分をさらけ出すように綴った内省的なソロ作品。しかし、どちらにも共通しているのは、“何か”が見える、 “誰か”が存在している、“未来や明日はきっとくる”といった想いなのかもしれない。
 稲葉の作品には哀しみや葛藤、渇望して何かを追い求めているシチュエーションが多いけれど、だからこそ明日への希望や願いがより強く浮き彫りにされて、痛いほど切なく胸に響いてくるのだと感じる。どんな状況にいても、一縷の光が射してくる事を忘れない、求める視線だけは失わない――これこそが稲葉作品の最大の魅力なのだ。


「Wonderland」
 価値観を押し付け合う、良かれと思って相手に意見を言う、アドバイスをする……。恋愛だけではなく、誰にだってこんな風に他人に何かを言う事はある。稲葉浩志はそんな日常のありふれたと言っても良い光景を、自責の念とも取れるほどの反省、そして人間としての自分の在り方を追及して、作品としてここまで創り上げてしまった。彼のシンガー・ソング・ライター体質が色濃く現れ、そしてその才能ゆえに生まれたのだと、今まで以上に強く感じさせられたナンバーである。
 この歌詞、実は3、4年前には既に書き上がっていたとか。そうすると、今作としてリリースするまでの間、この考えを稲葉はずっと持ち続けていたのだろうか? もしそうならば、彼の心の深さとあたたかさ、そして常に自分に足りない何かがあるはずだと追求する姿を、改めて実感してしまう。
 影が光に、醜さが美しさに変わる世界、それがWonderland。稲葉は、心を変化させる事で開けて見える世界があると考えている。そうやって新しく見えたものこそが、自分の中でのWonderlandという存在になるのだと言う。そして、きっかけや一歩踏み出す勇気さえあれば、誰もがこの地に自力で行く事ができるのだと綴っている。歌詞を温めていたと聞くと、きっと稲葉は今まさにその一歩を踏み出す状態になれたのかもしれない。

「あなたの声だけがこの胸震わす」
 誰にでも、もう一度会いたいと想う人の存在はあると思う。どんなにたくさんの人と出会っても、なぜか事あるごとにフッと思いを馳せてしまう人、どんなに時間が経とうとも声を聞き分けられるぐらいに、胸の深い所で全てがインプットされてしまっている人。そんな“あなた”を思う優しさを綴ったロマンチックなナンバー。
 この曲の“あなた”は、今どこにいるのか、どんな存在となっているのか……。主人公の手から離れ、もう二度と会うことがない人だと歌詞からは伺える。
 感情の一つ一つ、思い出の一つ一つを大切に包み込むような、温かなヴォーカル。その声で“もう一度会えるかな もう会えないかな”といったフレーズが歌われると、きっといつか会える日がくるはず、と聴いているこちらにも優しい気持ちがじんわりと広がって、そう願わずにはいられない。  ラストで“戻ることのない道をまた歩こう”と過去の大切な思い出を糧にしつつも進もうとする決意が示されている辺りが、稲葉らしい静かなパワーの漲りを感じる。

「I AM YOUR BABY」
 相手の元へ早く着きたいとはやる気持ちに、車窓の流れる風景がリンクされてより鮮明で動きを感じさせる情景的な仕上がり。車中での出来事を映像的に歌った作品と言えば、「静かな雨」(「KI」収録)が思い浮かぶ。例えば、1つの聴き方として、「静かな雨」で昔の人(に似た人)を見てしまったために、今、気になっている人にものすごく会いたくなって、それが「I AM YOUR BABY」という続編になったという風に考えるのも面白いかもしれない。
 “今夜はそれを愛と呼ばせてください”というフレーズも引っ掛かるし、「静かな雨」は交差点を曲がる所で終わり、このナンバーは交差点をまっすぐ抜ける所から始まっている……。偶然だとは思うけれど、1曲だけではなく自分なりに色んな世界と合わせて主人公の気持ちを推測してみるのも面白い聴き方としてお薦めしたい。

 以上、稲葉の魅力である歌詞をフィーチャーした解説となってしまったけれど、もちろんサウンド面でもリリースを重ねる毎にこだわりや技術の進化が表れているのは言うまでもない。今回のレコーディングはロサンゼルスのスタジオで行われ、ギターにスティービー・サラス、大賀好修、ベースに徳永暁人、ドラムにグレッグ・アップチャーチ(パドル・オブ・マッド)を迎えた、シンプルながらも臨場感溢れる卓越した各楽器のプレイが重なった、ドラマティックなサウンドに仕上がった。温もりを感じさせる音創りに、感情を内包したヴォーカルが交錯し、より深遠な世界観で胸に迫ってくる。
 7月16日からは全国11ヶ所20公演を巡る、待望のソロ・ライヴ・ツアー「稲葉浩志 LIVE 2004 〜en〜」がスタートする。そして、初参加となるライヴ・イベント「THE ROCK ODYSSEY 2004」の出演も控えており、作品のみならずステージ上で魅せるヴォーカリスト、プレイヤーとしての彼が、次にどんな感情を湧き上がらせ、どんな風景を綴ってくれるのか。稲葉浩志のソロ・アーティスト像への期待をより高めていく活動と作品は、リスナーである私たちにとってもWonderlandとなるに違いないのだろう。


稲葉浩志

NEW SINGLE
「Wonderland」

7.14 Release


VERMILLION RECORDS
BMCV-4001 ¥1,260(tax in)